優しい雨に抱かれて


雨の日は・・・・嫌いだった

あの日を・・・俺の罪を・・・思い出させてしまうから・・・

「信くーーーーーん」
「おっ、唯笑ちゃん。どうしたの?」
「ねぇ聞いてよ聞いてよぉ、智ちゃんったらまた唯笑のことバカにするんだよ」
「ああ、またか、あいつは・・・」
俺は親友の三上智也に対して大きな罪の意識があった。あの雨の日、彼の最愛の人が死にゆくのを、ただ黙って見ているだけだったことを、俺は未だに激しく悔いていた。
だから、罪を償うチャンスを覗おうと、俺は智也の親友というポジションに常に身を置いていた。そしてこの娘、今坂唯笑とも知り合った。

唯笑ちゃんが智也に好意を寄せているのは明らかだった。ある程度親しくなってきた頃にそのことを指摘してみると、「なんでわかったのぉ?」と赤くなりながら首を傾げて俯いていた(端から見てればバレバレなのだが・・・)。
そしてその後、唯笑ちゃんは時々俺に智也に関する恋愛相談を持ち込むようになった。もっとも、そんなことしなくても二人はいずれ付き合うことになるだろうと俺は思っている。智也の方も唯笑ちゃんには少なからず好意を持っているようだし、それに、普段はそんな素振りは見せなくても、二人とも俺と同様に、いや俺以上に、あの雨の日の記憶を未だにひきずっているから
同じ痛みを知る二人なら、幸せになれると思った。
二人が幸せになれば、俺の罪も少しは和らぐと思っていた・・・思っていたのに・・・

日常の何気ない会話・・・
「智ちゃん、いっつも唯笑のこと子供扱いするんだよ!」
「う〜ん、そりゃひどい(智也の気持ちもわからんではないが・・・)」
「昨日なんか近所の川にゴマヒゲアザラシがいたって言うからわざわざ見に行ったのに嘘だったし」
「あはははは・・・(いや、ちょっとは疑おうよ、ここ日本だよ)」

いつもの恋愛相談・・・
「えぇ〜そうかなぁ?」
「そうだよ唯笑ちゃん。まずは智也に唯笑ちゃんが一人の女の子だってことをアピールしなきゃ」
「う〜ん、たとえば?」
「たとえば!時にはえっちにせまってみるとか!」
「ダ、ダ、ダメだよぉ〜。まだ唯笑、心の準備が・・・」
「い、いやそんなに一気に進まなくても・・・」

そうして彼女と親しくなるうちに感じていた疑問があの一言で確信に変わった。

「いつも話聞いてくれてありがとう。信君っていい人だよね、唯笑の親友だよ」
・ ・・いいひと・・・親友・・・
何気ない一言が少しだけ心に痛かった。

ああ、そうか。俺はもう・・・今坂唯笑に対して、友達以上の感情をもってしまったんだ・・・

それでも、深く考えることなくその感情は諦めに直結した。
(何考えてるんだ・・・俺は。また智也達を不幸にする気か?)
(いいじゃないか、好きな娘が俺のことを親友だと言ってくれる・・・いつも笑って話しかけてくれる・・・それで・・・十分だろ?)
そう、このままでいい。このままの関係を続けていれば皆が幸せになれる・・・はずなんだ・・・

しかし、やがて変化は訪れた。
高校に入って二度目の秋を迎えるころ、その転校生、双海詩音はやってきた。
彼女が来てから一ヶ月ほどして、智也は端から見ててわかるほどに変わった。
本を開けば3秒で眠りにつくあの男が放課後になると図書室に足繁く通うようになった。
しかも、やつにとって貴重な睡眠時間であるはずの授業中に時代小説を読むようになった。
それどころか、先日は突然新撰組の魅力について熱く語り始めた。
それら全てが『双海さん効果』のようだ。以前は常に周りと距離を置いていた彼女も最近少しずつクラスメイトと話すようになっている。智也と双海さんは確実に互いの距離を縮めていた。
そしてその頃、唯笑ちゃんからの『恋愛相談』はぱったりと無くなっていた。
久々に『相談』を受けたのは、秋風が冬の訪れを告げる頃・・・

その日は駅に着いてから財布を忘れたことに気づいて学校に逆戻りする羽目になった。
「あれ、智也?」
階段を上がる途中で智也に会った。今日は双海さんが休んでいたので智也がこんな時間まで残っている理由がないのだが
「よう、信か。どうした?こんな時間に」
「ああ、財布忘れたんだ。一回駅まで行ったのに。そっちこそどうしたんだ?」
「いや・・・ちょっとな。じゃ、俺は行くわ」
そう言って去りかけた智也だが、ふと立ち止まって、
「信、教室に戻るのか?」と聞いてきた。
「ああ、そうだけど?」
「そうか・・・いや、なんでもない。じゃあな」

智也の態度を少し訝しく思いながら教室の扉を開けると、
「あ・・・信君・・・」
唯笑ちゃんがいた。だがそこにはいつもの天真爛漫な笑顔は微塵も感じられなかった。
「どうしたの?こんな遅くに」
「財布忘れちゃってね」
さっきと同じ会話。しかしその後、俺は入り口のところに立ち止まったままだった。
「信君?どうかしたの?」
「いや・・・何かあったの?・・・智也と」
「・・・あはは、やっぱ信君にはばれちゃうか」
笑顔を見せたものの無理して笑っているとしか思えない。さっきの智也の態度と唯笑ちゃんの表情を見れば何かあったのは明白だった。

「さっきね、智ちゃんに・・・智ちゃんに告白して・・・フラれちゃったんだ・・・」
「わかってたんだけどね。智ちゃんが双海さんのこと好きで、双海さんも智ちゃんのこと好きなんだって・・・」
「えへへ、バカだよね、フラれるってわかってたのにね」
「唯笑ちゃん・・・」
「また智ちゃんに迷惑かけちゃった。嫌われちゃうかな?」
「唯笑ちゃん」
「でも、大丈・・・」
「唯笑ちゃん!」
「無理して笑わなくていいよ。泣きたいなら、泣けばいいだろ?邪魔なら俺は出て行くから・・・」
「へ、平気だよ。唯笑はいつも笑ってないといけないんだよ。傷ついてなんか・・・ないもん」
「じゃあなんでそんなに寂しく笑うんだ!そんなに悲しい笑顔があってたまるか!」
俺にしては珍しく声を荒げてしまった。唯笑ちゃんも驚いた感じでしばらく黙っていた。
「信君は優しいね、やっぱりいい人だよ。今まで智ちゃんのこととか相談に乗ってくれてありがとう。唯笑の・・・親友だよ」
優しい?いい人?この俺がか?そして親友・・・そんなことが・・・そんなことが・・・
「そんなことが言って欲しいんじゃない!」
「親友なんかじゃ足りない!二番目なんかじゃ意味がない!俺は・・・俺は唯笑ちゃんが智也に向けてる視線を俺に向けて欲しかったんだ!唯笑ちゃんのことがずっと好きだったんだ!」
言っちまった。俺のバカ野郎、何故こんな時に言ったんだ。唯笑ちゃんだって傷ついてる時に。
「えっ?・・・・・・・・・・そう・・・なの?」
「・・・・・・・・・・・ああ」
「なんで?じゃあなんで・・・いつも唯笑の相談に乗ってくれたの?信君が嘘ついたことなんてなかったじゃない」
「唯笑ちゃんと・・・智也には、幸せになってもらいたかった・・・二人が過去を振り切れないのは・・・俺のせいだから」
「過去・・・?信君の・・・せい?」
「俺は3年前の雨の日、智也の大切な人・・・桧月さんが事故にあった時あの場所にいたんだ・・・
なのに俺は何もできなかった・・・俺がもっと早く救急車を呼んでいれば彼女は助かったかもしれない・・・でも俺は怖くて・・・ただ震えて立ちすくんだままで・・・智也が泣き崩れるのを、黙って見てた」
「高校に入って、智也に会って、唯笑ちゃんに会って、二人が付き合うようになれば過去を振り切れるかもって思った。そしたら俺の罪の意識も軽くなるかもって思った。・・・・ごめん、俺、本当は唯笑ちゃんに告白する資格なんて・・・いや、智也や唯笑ちゃんと友達でいる資格すらないんだ・・・」
いつの間にか唯笑ちゃんは泣いていた。
「そんなことない・・・信君だけのせいじゃない!一番悪いのは・・・唯笑が・・・唯笑が・・・」
「ごめん」と呟いた後、彼女は鞄を掴んで走り去った。
夕闇の迫る教室の中、俺はいつまでも一人で佇んでいた。
「後戻りは・・・・・・出来んよな」

翌日・・・
私は学校に行くのが怖かった。信君や智ちゃんと顔を合わせるのが辛かった。彼もまた過去を振り切れないで苦しんでいた。それでも自分の気持ちを殺してまで私と智ちゃんの幸せを願ってくれた。そんな彼を、私はずっと傷つけ続けてきたのだ。友達の資格がないのは、私の方なのに。

重い足取りで遅刻ギリギリにクラスに入ると、信は教室にいなかった。少しだけ安堵しつつ席に着くと、机の中に手紙が入っていた。


こんなこと言えた義理じゃないけど、もう後戻りはしたくない
昨日の告白の答えが欲しい
今日の午後4時  澄空の高台で待ってる
                    稲穂 信
P.S
  4時に都合が悪かったら何時間でも遅刻してくれ  待ってるから

「ごめんね・・・・・・・・・・信君」

同日  午後4時 澄空の高台
すでに30分以上前から信はそこにいた。
「4時か・・・来てくれるかな・・・」
澄空の街を見下ろすこの高台は夕日がきれい、夜景もきれい。しかもあまり人が来ないとあって彼女ができたら連れてこようと俺が密かに思っていた場所だった。ただこの季節、あてもなく人を待つにはかなり寒い。
「ま、あんなこと書いたんだし、気長に待つかな」
そうして俺は沈む夕日を見つめていた。

同日  午後8時30分  駅前バーガーワック
すでに3時間近く、唯笑はそこにいた。信からの手紙を見つめながら、
「ごめんね信君・・・もう・・・帰ってるよね」
外を見れば雨が降り始めている。それでなくても約束の時間から4時間以上経っている。
そろそろ帰ろうかと思った時、
「唯笑ちゃん?」
振り返るとそこに音羽さんがいた。双海さんと連続するようにやってきた転校生でまだ一ヶ月程しか経ってないがすでに唯笑達とは古くからの知り合いのように親しくなっていた。
「かおるちゃん・・・どうしてここに?」
「あっ、私ここでバイトしてるんだよね。今終わったトコなんだけど、忙しくて声かけられなかったんだけどさ。お客さん、チーズバーガーとシェイクだけで3時間も席取られたら営業妨害ですよ」
「あっ、ごめん。もう帰るから」
「まぁ待ちなさい。ずいぶん元気ない顔してたね」
と言いつつかおるちゃんは私の前に座った。
「・・・・・・・・・・もしかして・・・稲穂君のこと?」
「えっ?なんで・・・・」
「ごめん・・・たまたま昨日二人のやり取り聞いちゃって・・・」
「そうだったんだ・・・」
「それで?あの後何か進展はあったわけ?」
「・・・別に、何もないよ・・・」
と言いつつもさっきまで見ていた手紙を隠そうとしたが、かおるの手の方が素早かった。
「あっ・・・それは・・・」と言った時にはすでに手紙を読まれていた。
「言いたくないなら別にいいけど・・・なんて答えたの?」
「・・・・・・・・行ってないもん」
「待ち合わせに行かなかったもん。ここに来るまで、ずっと学校にいたから」
「なっ、何でよ!」
「もういいでしょ、かおるちゃんには関係ないもん!もう放っといてよぉ!」
「全然よくないわよ!稲穂君、まだ待ってるかもしれないのよ!」
一瞬、感情的になりかけたかおるだが、泣いている唯笑を見てむりやり気を静めた。
「・・・ごめん、怒鳴っちゃって。でもさ、稲穂君のこと好きになれなくてもさ、やっぱり返事だけは返すべきなんじゃないかな・・・月並みなことしか言えないけど・・・」
「・・・そうじゃないよ・・・・信君に告白されて、唯笑は嬉しかった・・・・でも・・・唯笑は・・・唯笑は、信君の気持ちに応える資格なんてないんだもん・・・・・・信君も、智ちゃんも・・・彩ちゃんのことでずっと、ずっと苦しんで、傷ついてきたのに、唯笑は・・・二人みたいに苦しんだりしなかった!彩ちゃんがいないなら、智ちゃんが唯笑のこと好きになってくれるかもって思ったりもした!唯笑は・・・本当は信君にも・・・智ちゃんにも・・・好きになってもらえる資格なんかないんだよ・・・・・・・・・・きっと信君、もう怒って帰ってるよ・・・唯笑、ひどい子だもん、それで、いいんだよ・・・」
「・・・・・・ほんとうに・・・ひどいね、稲穂君が怒るわけがないでしょうが」
「えっ?」
「そりゃ、もう何時間も経ってるから稲穂君も帰ってるかもしれないけどさ、怒ってるなんて事はないよ。むしろ、ますます過去の傷を深めちゃってると思う。稲穂君に告白されて嬉しかったんでしょ?付き合えないにしても、そのことだけでも伝えてあげるべきだよ」
「・・・・でも・・・・・」
「でももストもないの、三上君にフラれちゃったからってのはあるかもしれないけど、告白されて嬉いと思ったなら、唯笑ちゃんも稲穂君のこと好きな気持ち絶対にはあると思うよ」
「それにね、私が前の学校の幼馴染の話してた時、唯笑ちゃん、時々すごく寂しそうな顔してた。唯笑ちゃんだって傷ついてないことはないんだよ、ずっと苦しんでたんだよ・・・・
もう、自分を責めるのは、止めにしよ?」
「ありがとう、かおるちゃん・・・でも・・・唯笑・・・・・どうすればいいんだろ」
「それは自分で決めなきゃだめだよ」
「信君、待っててくれるかな?」
「案外まだ待ってるかもよ?稲穂君ってその辺はすごく執念深そうだし」

「っくしゅ・・・うぅ〜さみっ」
「9時か・・・あと1時間待ってみるか?」
1時間前、2時間前に言ったのと同じ台詞を俺は繰り返した。
この場所に来てからもう5時間以上が経過している。さすがにもう来ないだろうなぁ、と俺自身思ってはいるもののなかなかその場を立ち去る気になれない。ちなみに雨が降ってきたが天気予報を全面的に信用したために傘もない
(やっぱ、ダメかな・・・)
(雨の日は・・・・・・・嫌いだ・・・)
あの日を思い出してどんどん気持ちが弱気になり、危うく泣き出してしまいそうな時だった。

ぱしゃぱしゃぱしゃ・・・

水溜りの上を走るような足音が聞こえた、俺の少し後ろで止まった。
空腹と寒さによる幻聴・・・ではないらしい、ぜぇぜぇという息遣いも聞こえる。
ずっと待っていた人が来てくれた、嬉しいはずなのに振り向くのが少し怖い、気持ちが全然落ち着かない、振り向く前に大きく1回深呼吸、よし、OK
「来てくれたんだ?」
「なんで・・・?何で待ってたの?雨降ってるんだよ?何時間過ぎてるんだよ?」
「何時間でも遅刻していいって書いてあったでしょ?雨は予想外だったけどね、まったく最近の天気予報は・・・」
「ばかぁ、ばかぁ!風邪ひいたらどうするんだよぉ、ぐすっ・・・唯笑なんか待っててもらう価値なんかないんだよぉ、唯笑は悪い子だもん・・・幸せになっちゃいけないんだよぉ」
「俺も・・・同じこと考えてた・・・さっき、唯笑ちゃんがくるまで」
「ぐすっ・・・ぐすっ・・・何を?」
「幸せになっちゃいけないってこと・・・俺なんか幸せになっていい人間じゃないんだって、だから唯笑ちゃんは来ないんだって・・・でも、それは違うって、わかった」
「・・・・・昨日さ、あの後、智也ん家に行ったんだ。それで智也から聞いた・・・・・・
桧月さんのこと」
「・・・彩・・・ちゃんの?」
「ああ、智也には、辛いこと思い出させちまったけど、おかげでいろいろわかった。桧月さんって、本当にすごくいい娘だったんだな・・・・・」
「・・・・・・うん」
「それでさ、思ったんだ・・・彼女は、唯笑ちゃんが過去を振り切らずにいつまでも自分を責め続けることなんて決して望んでない、唯笑ちゃんのそばにいられなくなっても、きっと唯笑ちゃんの幸せを願ってくれてるんだって・・・」
「俺に唯笑ちゃんを幸せにできるかはわからない、だから、その答えを教えてくれないか?」
「・・・・・・・・・・・・・唯笑で・・・・・・・いいの?」 
「唯笑が、いいのっ」
「信君のばか・・・・・でも・・・大好き」
嬉しさや、安堵や、いろいろな感情が溢れて抑えきれなくなり、俺たちはそっとキスを交わした、二人見つめあったまま、もう一度唇を近づけかけた時、

ぐぅ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

思いっきり腹の虫の咆哮が鳴り響いた。
「・・・・・・・・・・・・・ぷっ」
「うぅ・・・ごめん」
「あはは、信君、ムード台無し」
「ご、ごめん・・・だけどさ、とりあえずファーストキスの前じゃなくて本当によかった」
「信君・・・もしかして夕ご飯食べてないの?ずっと唯笑のこと待ってたの?」
「ん・・・まぁ、買いに行ってる間に入れ違いになったら泣くに泣けないでしょ?」
「ごめんね、お詫びに今度、唯笑がお弁当作ってきてあげるよっ」
(今だけは幸せな気分に浸りたい、唯笑ちゃんの料理の腕に関する情報の全てを忘れよう)
「・・・・・うん、毎日でもお願いするよ」
俺はそっと唯笑ちゃんを抱きしめた、そして仕切り直しのセカンドキス。

雨はいつまでも降り続いていた・・・でもこれは、あの日の雨とは違う・・・
ぱらぱらと降り注ぐ穏やかで、優しくて、暖かい雨が俺たちを包んでくれた・・・・・

そして、微かに天使の少女の声が聞こえたような気がした・・・・・
「稲穂さん、ありがとう。ちょっと手がかかるかもしれないけど、唯笑ちゃんのことお願いします。二人とも、お幸せにね」

「信君おそーーーいぃーーー」
4回目のデートで初めて遅刻した。それも30分の大遅刻
「ぶぅ、寒かったのにぃ」
「ご、ごめん、昼飯おごらせていただきますから・・・」
「ふふっ、ウソだよー、本当は怒ってないよ、たった30分だもん」
「たった・・・かなぁ?」
「私は5時間だったからねっ」
そう言って彼女は駆け出した。
「信くーん、早くしないと雨降ってきちゃうよー」
見上げれば空は曇り、もしかしたら降り出すかも。やれやれ、せっかくのデートだというのに。
でも・・・もう大丈夫。3年前のあの日の、冷たい雨の記憶が消えることはないだろう。
でも、俺達を包んでくれた穏やかで優しい、暖かい雨のことも忘れない。

あの日から少しだけ・・・ほんの少しだけ、雨の日が好きになれた気がするから

                                   終わり


後書き

う〜ん、初めて書いたSSだったんですけど、どうだったでしょうか?
やっぱりいざ書いてみると難しかったです。
いろいろ至らないところも多いと思いますが、楽しんでいただければ
僕としても非常に嬉しいです。
                        夜霧 京