「白い傘」 from Memories Off by KID

・第3回 プール

「藍ヶ丘市民プール」
落差8m、長さ20mというおよそ市民プールには似つかわしくない豪華なウォータースライダーがあって、実は隠れた名スポット。
町のお金持ちがどどぉ〜んと寄付したということでできたみたいだけど、そういった経緯(いきさつ)なんかは関係ない!!
ようは近所に手軽に楽しめる遊び場があるってこと。
スピード感バッチリで、結構お気に入りなのよねぇ〜♪

「なぁ、彩花・・・。またあのスライダーに挑戦するのか?」
プールの入場券を買った後、智也が何気なく聞いてきた。
「うん。楽しみぃ〜。」
とルンルン気分で答える。
「俺、並ぶのやなんだけどなぁ〜。」
「なんで?それくらい我慢我慢♪」
「あのなぁ・・・」
その会話を聞いて唯笑ちゃんが顔を曇らせてる。
「ふぇ〜、唯笑もやだよぉ。怖いもん。」
「唯笑ちゃんもさぁ、一度滑ったらおもしろいよぉ〜。」
前に行った時も、頂上でさんざんごねてごねた挙句の果てに、係員に降ろされてたっけ。
「じゃあ、一緒に降りようよね。それなら大丈夫でしょう。」
「でもぉ・・・。」
「女は度胸よ。」
「う〜ん・・・、でもぉ・・・。」
「じゃぁ、俺は下で応援してる。頑張れよ、唯笑。」
と智也が言った。
「・・・・・・、・・・・・・ぅぅぅうん。」
「じゃぁ決まり!!」
「さぁ、早速着替えましょう。」
と更衣室の入り口に向かう・・・って?
「と〜も〜や〜、何でついてくるのよ?」
「いやぁ、俺も着替えようかと思って・・・。」
「男子はあっち!!」
「・・・お約束ということで・・・。」
ポカッ。持っていた鞄で智也の頭をこずいた。
「はいはい・・・」
というなり、さっそうと男子更衣室に入っていった。
まったく、なぁに考えてんだか・・・。

着替え終わった私達は更衣室から飛び出した。
「おっまたせ〜、智也。」
「遅いぞ、おまえら。カップラーメンが食べ終わるほど待ったぞ。」
「えぇ、智ちゃん、カップラーメン食べたの?いいなぁ、唯笑も食べたかったなぁ。」
「・・・・・・。」
「・・・・・・、あのね唯笑ちゃん。カップめんの話はもののたとえだよ。」
「ほぇ?そうなの?」
もう、唯笑ちゃんてばぁ、なんでもすぐ信じちゃうんだからぁ・・・、将来がちょっと心配。
「それより智也、なんか他に言うことないの?」
「はぁ?」
「もう、張り合いのない・・・せっかく新しい水着にしたのに。」
「唯笑もだよぉ〜。」
私は白のワンピース、唯笑ちゃんはピンクのセパレーツの水着。
「中身が一緒じゃなぁ・・・。」
「・・・・・・、なによそれ。」
「智ちゃん!!」
「あぁぁぁ〜、うぅぅぅ〜、お二人ともとっても似合っていると思います・・・。」
「よし!」
「やったぁ〜!」
唯笑ちゃんはピョンピョン跳ねながら喜んでいる。
「じゃぁはりきって行くわよ。」
「おぉぉ×2」
智也と唯笑ちゃんが右手を高々と挙げた。

「唯笑ちゃん、さぁ行くよ。」
「えぇぇ、こわいよぉ〜。」
ウォータースライダーの頂上にだだっ子が1名・・・。
「ほぉら、一緒なら大丈夫でしょう。」
「・・・でもぉぉ。」
スライダーに腰をおろしているものの、縁をしっかり掴んで離さない。
「さっき、うん、っていったじゃないのよ。」
「・・・うん、でもやっぱりいや・・・。」
「・・・あのねぇ、後ろのみんな待っているんだから早くしないと。」
「・・・でも・・・」
「ほら智也も見てるよ、・・・ってあれぇ・・・。」
智也が女の子と話してるっ!?

誰だろう?
でも綺麗な人だなぁ・・・。私より年上かなぁ・・・、高校生くらい?
って一体何、話してるんだろう?
あぁぁっ、智也ってば、鼻の下伸ばしてる(怒)!
すぐ降りてとっちめてやるんだから!!

「・・・・・・ねぇ彩ちゃん・・・、・・・やっぱりやめようよぉ・・・。」
下から見上げる唯笑ちゃんの声が聞こえてきた。
「えっ・・・そうだ。ほら、もういくわよ!!」
といって唯笑ちゃんをスライダーに強引に押し出した。
「えっ!!きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ・・・・・・。」
唯笑ちゃんは絶叫とともにプールに落ちていっちゃった・・・。
「唯笑ちゃ〜ん。」
「ダメダメ、危ないからすぐに降りちゃ。」
慌てて降りようとする私を係員さんが制止する。
唯笑ちゃんは下で見ていた係員さんに手を引かれてプールの端っこに歩いていった。
やっちゃった・・・。唯笑ちゃん、泣いてるかも・・・。
そんな唯笑ちゃんを見て智也が側に駆け寄っていった。
これも全部智也のせいなんだからね!!

急いでスライダーを降りて恐る恐る2人の所へ向かう。
「・・・きゃはははは・・・」
あれぇ?唯笑ちゃんの笑い声?
「あっ、彩ちゃ〜ん!!ねぇねぇねぇ、面白かったねぇ!!」
「はい?」
相当間抜けな声で返事をしたかも。
「大丈夫だったの?」
「うん、面白かったよぉ〜。もう1回行こうよ!」
「・・・・・・。」
「あれぇ?どうしたの彩ちゃん?」
なんか拍子抜けしちゃったよ・・・。はぁ〜。
「ねぇ〜もう1回行こうよ。今度は3人で。」
唯笑ちゃんは1人ではしゃぎまくっている。

「・・・・・・うん。」
「どうしたんだ、彩花。」
智也・・・・・・、って顔見たら思い出した・・・。
「あっ、そういえば智也、さっき下で女の子と話してたでしょう。」
「あぁ・・・うん・・・。」
「何、話してたの?」
「あぁ?さっきのって・・・、パンに何をはさんだだら美味しいかとかいう話?」
「なにそれ?」
「うん、さっきの子、創作パンを考えているんだってさ。」
「で、智也はなんて答えたの?」
「カラ揚げ。」
「まぁ、智也の好物だもんね。」
「そしたら、ありきたりよ、とか言われてどっかいっちゃったんだよね。」
「ふ〜ん。」
そっか、そうだったんだ。だから下向いてたんだ。
「・・・ふふふ・・・。」
「どうした、彩花?」
「・・・ふふふ・・・、ううん、・・・ふふふ・・・なんでもない。」
「・・・??」
笑いが出てきて止まらない。
「彩ちゃん、どうしたの?」
「彩花のやつ、なんか変なんだ。」
「ふふふ・・・、ははははは・・・。」
お腹が痛くて、涙が出てくるよぉ・・・。
「彩ちゃんが変になっちゃった・・・。」
唯笑ちゃんが心配そうに顔を覗き込む。
「さっき降りてくる時にどっかぶつけたか?」
智也はおでこに手を当ててくる。
「あははははは・・・・・・。」

やっと、笑いがおさまった。
落ち着いた自分の顔が赤くなって、熱をもっていることに気がついた。
あぁ〜あ、恥ずかしいなぁ・・・。もう。
「ううん、なんでもないよ。さぁ、行こうよ!!」
赤くなった顔を悟られないようにさっそうとスライダーに歩き出す。
「ほぇ?」
「???」
急に張り切る彩花の後ろ姿を怪訝そうについていく唯笑と智也。

暑い夏の1日は、私にとって1つの記念日になったんだよ。

to be continued ... written by 竹河晴(AZALIN) 2001.08.18

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・作者後書き
え〜と、やっと第3回目です。皆さんお待ちかね(?)のプールの話です。なんかだんだん1話分が長くなっているような・・・。
お読み頂く方、お疲れ様ですm(__)m。今後ともよろしく。
まぁそれはさておき如何でしたでしょうか?「ビューリホー女子大生」になる前の「ビューリホー女子高生(と自称していたかは
不明)」小夜美さんが登場しました。パンにはさむネタを通りすがりの人に聞いて回るなど、研究熱心な一面が伺えますネ(笑)。
またちょっと書き方が変わりました。途中で変えるべきかどうか悩んだんですが、どうでしたでしょうか?ご感想をお待ちしてます。
でわぁ〜また次回、お会いしましょう。