Memories Offオリジナルストーリー
Memories Mirage


Act:00 始まりの朝、そして…


 …いつの頃からだろうか?その少女が、常にそばにいた幼馴染みの一人を「異性」として
思い始めたのは…。そして、少年がその想いに気付いたのは、いつのことだろうか?

 …チュン、チュン…
よく晴れた朝、少年は相変わらず夢の世界に居続けた…。そう、彼にとっては半ば『年中行事』とも
言える、恒例の襲撃を受けるまでは…。
『コンコン…コンコンコン……』
誰かが窓ガラスをノックしているらしい。それに合わせて一瞬、少年の体がぴくりと震えた様に
見えたが、どうやら覚醒の気配はないらしい…。すると、『ガンガンガン!!』という今度はもっと
激しい…。そう、窓の外でその誰かが、何か硬い物体で窓ガラスを叩き始めた様である。そして…。
「智也ぁー!起きなさい!!」
今度は少女の声が聞こえてきた。
「だぁぁぁ!うるせぇ〜!!」
智也と呼ばれた少年は、ザバッとくるまっていた布団をはねのけると同時に、『シャッ!』と気持ち良い音と共に勢いよくカーテンを開いた。
「彩花!お前、今何時だと思ってんだよ!!」
智也は窓の外の少女―彼女は智也の部屋の窓際の屋根に立ち、手にはうさぎのヌイグルミを
持っていた―に向かって声を荒げた。が、
「午前8時」
彩花と呼ばれたその少女はあっさりと事も無げに答えた。
「そ、そうだよ。午前8時なんだぞ、8時!だから…」
バサッ!!
言い終わるが早いか智也は再び布団を被って、まるで饅頭の様な格好になってまたぐっすりと眠ってしまった。そして…。
「おやすみなさい…」
 この間、時間にして僅か数秒。あまりの早技に呆気に取られていた彩花であったが、そこは勝手
知ったる幼馴染み。彼女も負けてはいなかった。 素早く智也の部屋に入り込むと、彼がまとっていた布団をはがし、よく整えられた指先―正しくは指の爪であるのだが―で既に寝息を立てている智也の頬を思いっ切りつねっていた。
「いて!いてててて!!」
「とぉ〜もぉ〜やぁ〜!!」
この攻撃の前には、さしもの智也も起きざるを得ない。
「わ、わかりました。彩花サン」
智也の敗北宣言を聞いて、彩花もようやく智也を解放した。
「で、何で朝の8時に俺を起こすんだ?」
智也が、赤くなった頬をさすりながら彩花に尋ねた。が、
「……」
その智也の言葉を聞いた彩花が、呆れた顔で智也を覗き込んだ。そして、
「智也…、今日…何日だっけ?」
「アホか、今日は4月7日なんだぞ!…ん?4月…7日…?……」
「思い出した?」
「!!」
見る見るうちに、智也の表情が半分寝ぼけ眼の顔から驚愕の表情に変わっていく…。
「わかった?」
彩花は、相変わらず呆れ顔で智也を見つめている。
 そう、今日は1996年4月7日。この日は、少年―三上 智也と、幼馴染みのこの少女―桧月 彩花が通う「藍ヶ丘北中学校」の新学期が始まる日なのである。

 ばたばたばた…。どたどたどた…。
そんな、朝の騒乱の音が響き渡ってくる…。普通ならば、『こらっ!智也!!静かになさい!!』と
いった類の親の声が響いてくる筈なのだが、どういった訳か聞こえてこない。それもその筈、現在
三上邸には智也だけが一人暮らしに近い状態で生活しているのである。
 というのも、智也の母親は彼の父親―裁判官で、遠方の地裁に単身赴任中なのだが―の下に世話を焼きに付いて行ってしまったのである。
バタンッ!!
派手な音を立ててドアが開き、智也が慌てた様子で飛び出してくる。
「よし!急ぐぞ、彩花!!」
そう言って、手櫛で寝癖を直しつつ足早に学校へ急ぎ始めている。そんな智也を横目で見つつも、
彩花はラップに包まれたサンドイッチを手渡す。
「はい智也。どうせ、朝ご飯食べてないんでしょ?」
「お、いつもいつも悪いな。サンキュ、彩花」
そう言って智也は渡されたサンドイッチを頬張り始める。
………。
 そんないつもと変わらない朝の一コマが続く間に、智也達は一軒の家―表札には『今坂』と記されていた―の前に着いていた。そして…
ピ〜ンポ〜ン♪
彩花が、ためらうことなくその家のインターホンを押す。すると…。
『行って来ま〜〜す!!』
その家の中から底抜けに明るい少女の声が聞こえてきた。そして…。
バタンッ!!
智也に負けず劣らず、と言った感じでドアが勢いよく開き、智也達と同じ制服―しかし、インナーに
黒いタートルネックを着ている―に身を包んだ、肩までのショートカットの少女が弾かれたような勢いで玄関から元気良く飛び出してきた。
「彩ちゃん、智ちゃん、おっはよ〜!!」
そう言いながら、その少女は―まぶたが少し腫れている事と、少しだけ寝癖が付いている事から、
その少女も起床して間もない事が容易に推測できる―トントンと靴の爪先を地面に叩き付けている。
「あーっ、唯笑ちゃんも寝坊したんだ!?」
と彩花が少し怒ったような表情―しかし、実際には微塵も怒っていなかったが―を見せた。
「えへへ、ちょっとだけね」
唯笑と呼ばれた少女はペロッと小さく舌を出して見せた。
「さ、急ごうぜ二人とも」
と智也が二人を促す。
そんなこんなで、他愛ない話―昨夜のTVのバラエティー番組や、歌番組の話がほとんどであるが―に華を咲かせつつ、三人は学校へと桜の花びらの舞い散る道を歩んでいった。

 智也、彩花、唯笑…。この三人は、家が近所同士で、親同士の付き合いがあった―特に、この三人が生まれてからはより親密な付き合いになっていったという―ことから、保育園の頃から揃って同じ
クラスになることが多く、何をするにも一緒といった雰囲気があった。智也と唯笑に関しては一人っ子なのだが、彩花には一つ年下の従妹がひとりと、同い年の従兄妹が数人いるらしかった(タイミングが悪いのか、智也も唯笑もその従兄妹達にはあったことがないそうである)。

 『澄空市立藍ヶ丘北中学校』―智也達の家から徒歩で20分程の距離にある中学校で、周辺の
住宅街の子供達が通う、校門から続く立派な桜並木が自慢の学校である。
その桜並木をくぐりながら、智也達は昇降口の脇に辿り着いていた。
「さて…と」
智也がそう言いながら壁に張り出されている数枚の紙を眺めていた。
その紙には、二年生のクラスの生徒名簿と担任教師の名前が記されていた。つまり、
この紙はクラス分けの発表だったのである。
「よっし!B組だ!!」
「おぉ〜、F組だぞぉ!」
「おい、お前は何組だった?」
成程、周囲からは友人同士のクラス確認のざわめきが聞こえてくる。
「え〜と、俺は何組だ?…三上…三上…っと……。ふむ、B組か…」
「え〜っとぉ、唯笑は…」
「あたしは…・っと」
智也達も自分のクラスの確認を始めたようである。
「彩花、唯笑。お前達は何組だった?」
そう尋ねる智也に、彼女たちは…。
「とぉ〜もぉ〜ちゃぁ〜〜〜ん。唯笑はねぇ、A組だったの…」
「あたしは…B組だったよ」
と答える二人。
「よぉし、じゃあ、新しい二年生の生活を始めるとするか!!」
と意気込んで、クラスに向かう智也。そして…。
「あぁ〜〜ん!まってよぉ〜〜、智ちゃ〜〜ん!!」と慌てて後を追う唯笑。そして、
「もう…、智也ったら…」と呆れながらに二人の後を追う彩花。

 そう…、今この時を境に、『いつもと変わらないはずの時間』が静かに、しかし確かに揺らぎ、
『異なる運命』という名の蜃気楼―Mirage―を紡ぎ始めていた……。

―Memories Mirage Act:00― 完

>>筆者のあとがき<<
 …・いや〜、しっかりと苦労しました!!なかなか詳細な設定を思い出しづらい部分もあったりで、
結構HARDな序章の執筆でした。

涼「しかし…」
氷龍「うん?」
涼「Waffle多すぎですよ」
華音「Waffle?ってあの…お菓子の…?」
涼「駄文のことだよ」
氷龍「ほっとけ!」
華音「ま、まあまあ落ち着いて。氷龍さんだって初めての執筆作業だったワケだし、ちゃ〜んと
   修正していってくれますよ。ねね、氷龍さん?」
涼「そうあって欲しいですね」
氷龍「善処します…(_ _ )/ハンセイ」

ではでは、この後に続く第二話に、
全員『乞う、ご期待!!』

to be continued…
FC2 キャッシング 無料掲示板 無料ホームページ