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『チュンチュンチュン……チチチ………』
カーテンの隙間から射し込む柔らかな朝の光と、スズメ達の歌声が朝を告げる…。そして、カーテンの隙間からその朝日が細く射し込むベッドの上で、三上智也は高校一年生の始まりの朝を迎えた…が、高校生になったからと言っていつものグータラな生活が急に良くなる訳がない。
と言う事は、毎度とはいえ当然の様に……。
『ガンガンガン!!』
と言う、何かが窓ガラスを激しく叩く音が聞こえる訳であり、『だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!』と言う
智也の叫び声が覚醒の合図になるのは、もはや小学校高学年の頃から
毎日の様に続いたパターンであった。
智也は絶叫と共に飛び起きた後デスクの時計で時刻を確認するが、彼のデスクの上にあるデジタル時計は『7:15AM』と言う時刻を愚直に表示していた。そして、彼は確信と共に隣家に最も
面している窓に向かって行き、勢いを付けてシャッとカーテンを開いた。そして…
「彩花ァ!お前なぁ…俺の安らかな眠りを何で妨げるんだ!!春休みくらいはもっと
ゆっくりと寝かせろよ…」
と抗議の声をあげたが、彩花は手にしたノートに何かをさらさらと書きそれを智也の面前に
突き付けた。そして、それを一読した智也の顔が見る見る驚愕の色を浮かべ、彩花が
ノートを下げた瞬間まるでF1レースのスタートよろしく猛然と身支度を整え始めた…かに見えたが、
そこでふと気付き、彩花の方に振り返り
「彩花、お前の着替えはいいのか?どうせ、電車は同じなんだろ??」
と尋ねたが、彩花は自分をチョイチョイと指差した。…そう、既に彼女は着替えを終え、これから自分が通う『市立澄空養護高等学校』の制服−それは、智也たちがこれから3年間の間通う
『私立澄空高等学校』のセーラー服とはまた違う、ブレザータイプの制服だった−を着こみ、
手にはノートとキツネザルのぬいぐるみを手に立っていたのである…。その準備の良さに智也は
驚かされるのだが、同時に
「お前なぁ…そんなに早くから着てるとシワが寄っちまうぞ…。
出かける直前に着てもいい位だってのに…」
と苦笑しながらも『着替えるからな、俺の裸見たかったらそこにいてもいいぞ』
と言う一言が飛ぶのは当たり前の事だった…。
そして、身支度を整えた智也と彩花が家を出た−と言っても、お互いの家は隣同士で、二人の部屋に至っては屋根伝いで行き来出来ると言う程の近距離…いや、ゼロ距離とでも言うべき近さなので、二人の登校時間が重なるのは昔から変わらない事であった−のは、
それから程なくしての事だった。
三上智也と桧月彩花…二人がお互いの事を単なる『お隣同士の腐れ縁的な幼なじみ(智也談)』から『異性』として認識し、交際し始めたのは二人が中学二年生の初夏、新緑の6月の事だった。
しかし、それから程なくして彩花の身に降りかかった交通事故−容疑者はすぐに捕まったのだが−は、彩花から『声』を奪っていたが、それが結果として二人の絆を深めたのは運命の皮肉とでも
言うべき物だったのだろうか…。
それから程なくして、智也と彩花は一軒の家の前にいた。そして彩花がおもむろに
『ピーンポーン♪』と玄関のチャイムを鳴らした…。すると、玄関のドアが勢いよく開き
「おっはよぉー♪」
と言う明るい声と共に、一人の少女が玄関から飛び出してきた。
「おっす、相変わらず元気だなお前は…」
『唯笑、お早う』
と二人も挨拶を返した。そうしている間にも、唯笑と呼ばれた少女は手早く寝癖を直しつつ目覚めて間もない事が容易にわかる少し腫れぼったい目蓋をこすっていた。
『唯笑…どうせ夜遅くまでテレビ見てたんでしょう?』
と彩花がノート−言葉を失った彩花にとって、このノートこそがコミュニケーションの道具であった−に書き綴ったお小言に『えへへ…』と苦笑いを浮かべる唯笑。智也に彩花、そして彼女…今坂唯笑を
加えたこの三人はご近所同士と言う事もあってか、よく遊ぶ事が多かった。三人の中では、
しっかりした所のある彩花がお姉さん役の様な所があり、三人で行動する時にはまとめ役に回る事が多かった。そして唯笑はと言うと、二人の後ろをチョコチョコ付いて回る妹のような部分があった。
そして、三人は『私鉄芦鹿島電鉄芦鹿島線』の最寄り駅である『藍ヶ丘駅』から電車に乗り込み、
高校がある『澄空駅』へと向かって行った。
彼の朝はいつも早い。それは決して元からのものではないのだが、『向こう』にいた時の生活と
『職業柄』か、日の出と共に起きるという事は彼にとって何気ない事になっていた。
その日も普通に目覚めた彼は、手早く洗顔などを済ませてから淹れたてのコーヒーを片手に
新聞を読んでいた。もっとも、その前には近所の公園で軽く空手のトレーニングをしてきた訳であり、帰ってからのシャワーは当然の事であった。そして、丁度新聞を読み終わった頃、ゴソゴソという音と共にやや寝ぼけ眼の少女が枕を抱きしめ、杖を突きながらリビングに入ってきた。
「お早〜う…。兄さん、相変わらず早いね…起きるの」
「まぁ…ね。外科医時代には徹夜でクランケの面倒見ることもあったし、
一種の職業病みたいなものだと思うよ?」
などと肩をすくめながら彼…この部屋の主にして彼女…氷乃森華音の双子の兄である氷乃森涼は、キッチンに入って二人分の朝食を作り始めた…。
そして、朝食−涼の嗜好が菜食中心なせいか、コンチネンタルスタイルの朝食になるのがこの家の常であった−を済ませ、食器を洗い終わる。そうする頃には学校へ行く時間が近付いていた。華音はまだ数日春休みが残っているので、これから予習をしておくとの事らしい。そんな華音を見ながら、涼は澄空学園の制服にもはやトレードマークとでも言おうか、純白のスカーフタイを器用にまとめながら
『じゃぁ、行ってくるから。あまり無理はするなよ…』
と言う言葉を掛けて、涼は自宅でもあるマンション『セゾン澄空』の玄関をくぐって
朝日が眩しく煌く表通りに出て行った…。
氷乃森涼と妹の華音…この二人は元々はこの藍ヶ丘から遠く離れた街の生まれであった。しかし
二人が二歳の時、父親であり優れた医学者であった氷乃森慎一郎のドイツ渡航に合わせ涼はドイツに渡り、華音は生まれつきのアルビノ体質の為、急激に生活が変わるのはまずいだろうという配慮から日本に残る事になった。しかし二人が離れ離れになっている間に、華音は交通事故で右足をほぼ
潰された上に、左腕も半分以上もぎ取られていたのである。更に悪い事と言うのは重なる物で、華音が意識を失い生死の境を彷徨っているその時に、慎一郎と、彼の婦人であり涼達の母親であるニーナが交通事故で他界した。そのことが切っ掛けとなり、二人は藍ヶ丘に引っ越してきたのである。
その転居が二人が14歳の時だったから、既に一年は経っている。その間に色々と学んだ事は多く、
涼も華音もこの街での生活は気に入っていた。
澄空駅のコンコースに電車が滑り込んでくる…。そして、そのドアが独特のエア抜きの音と共に
開くと、中からたくさんの人−ある青年は真新しいリクルートスーツに身を包み、これから入社式に臨むのだろうかやや緊張した面持ちを浮かべていたし、またある少女は澄空高校の制服に身を包み、
智也達と同じくこれから入学式に行こうと、中学からの友人だろうか同年齢の少年や少女達と
笑いながら階段に向かっていた−がなだれ出てきた。その中を抜けながら、智也達も涼との
待ち合わせ場所でもある改札口に向かって歩いていった。
改札口では、周囲から向けられる好奇の視線をいつものポーカーフェイスで受け流しながら、涼がベンチの縁に腰掛けて待っていた。そして、涼も駅から出てきた三人に気付いたのか、腰まである
ストレートの白髪をなびかせながら立ち上がった。…そう、周囲の視線が涼に集まっていたのはなにも彼が周囲よりも頭一つ抜きんでている程の長身のせいでも、ドイツ人の血が半分流れているが為の
日本人離れした容姿のせいでもなく、その容姿をひときわ際立たせている長い白髪に
視線が注がれていたのである。
「Guten Morgen!(おはよう)」
と涼が片手を上げながら三人に近付きながらドイツ語で挨拶をした。それに対して智也達も
「おっす!」
『お早う、涼君』
「涼ちゃんおはよっ!」
と三者三様の返事を返しながらも、智也たちは学校に向かって歩き始めた。
そして、澄空高校と澄空養護学校との分かれ道に差し掛かったとき、
彩花がフッと皆から離れ
『じゃぁ、私はこっちだから…。また、帰りにね!』
と書かれたメモを智也に渡しながらも、彩花は少し寂しそうな表情を浮かべた。
「おう、また放課後にな…」
「彩ちゃんまたねー!放課後にワック行こうね〜〜〜♪♪♪」
と智也と唯笑がそう返事を返し、涼も
「それじゃぁ…またあとで」
そう言って涼が片手を上げながら返事し、各々がが学校へ向かって別の道へと別れていった。
「入学式か…校長の話聞くの面倒なんだよな…。唯笑はどうだ?」
澄空高校に続く坂道を登りながら、智也が唯笑に尋ねた。すると唯笑も
「唯笑も苦手なんだよね〜〜〜。聞いてるとすぐに眠くなっちゃうし…。
そうだ、涼ちゃんはどう?」
と同じ質問を涼に振った。だが、当の涼は少し困惑した様子で
「入学式の話って、そんなに長くするのかい?」
「ああ、入学式の時間の半分くらいは校長やPTA会長とかの話で費やされるからな…途中で眠くなるのはまずいし…。この眠気をどう制圧するかが入学式のポイントなんだ」
と智也がいつもの冗談を放つが、涼はこの一年で…唯笑に至っては小さな頃から聞かされ
慣れているせいか、二人揃って『ハァ〜〜〜〜〜ッ』と言った様子で呆れ帰っていた。
その頃、彩花は『市立澄空養護高等学校』と書かれたプレートが掛った校門をくぐり、教室で入学式が始まるのを待っていた。すると、一人の少女が『お早う!』と手話で挨拶してきた。当然と言えば
当然なのだが、彩花は手話を習った事がないので、彼女の挨拶の意味が解らず戸惑っていたが、
その少女はそんな彩花に気付いたのか、自分が持っていたメモ帳に『お早う!もしかして、
手話習った事ないの?』と書いて彩花に手渡した。
『うん…ここに通う訳だから、習おうとは思っているんだけど…』
と彩花も自分のミニノートに書いてその少女に見せた。すると、その少女は
『そっかぁ、じゃぁ…私が教えてあげようか?』
と、その少女は彩花にとって嬉しい提案をしてきた。勿論、彩花に断る理由はない。
彼女も微笑みながら
『うん!じゃぁ、お願いしちゃおうかな?…あ、そうだった。
私は彩花…[桧月 彩花]…。これからもよろしくね!』
と微笑みながら自己紹介した。すると、その少女もにこやかに微笑みながら
『私はみのり…[杉島 みのり]って言うの、よろしくね!』
と言う内容のメモが帰ってきた。
それから10分ほどして、彩花とみのりを含む生徒達はぞろぞろと、
入学式に望むべく体育館に入っていった…。
そして彩花が学校に付いた頃…智也たちはと言うと…。
『おい!お前C組だぞ!!』
『いょっしゃぁ!B組だ!!』
などと言う歓声があふれる昇降口…。彼らもその輪の中で自分のクラスを探していたが、そこは長身の上に視力が良いと言う涼の事。昇降口の脇に貼り出されたA4サイズのクラス表を凝視していたが、
ニヤリと不敵な笑みを浮かべながら智也達の方に向かって
「え〜と、智也君はB組…。唯笑ちゃんもB組か…。私は…っと…お?」
と、急にいたずらっぽい笑みを浮かべて口をつぐんだ。
「りょ…涼ちゃん?どしたの?」
「涼、どうしたんだ?…ま…まさか!?」
と唯笑も智也も訝ったが、当の涼はというと
「新・三人組結成だな…。私もB組だったよ……」
と少し嬉しそうに微笑んで鼻歌−流行の歌と言う訳でもなく、涼の鼻歌は大抵のケースはオペラ楽曲等、クラシックのそれが多かった−を口ずさみながら、軽い足取りで昇降口に一人先に歩いて行った。
教室の中と言うのは、どこの学校でも変わらないと言うのが相場であり、澄空でも同じだった。当然、そこに入って行く生徒もそろいの制服に身を包んだ、標準的な−裏を返せば『没個性的』な生徒とも言えた−生徒達が互いの顔なじみと談笑していたが、そこに不意に入ってきた人影を見た瞬間、
男子からは驚愕と羨望の声が聞こえ、女子からは黄色い声が上がった。なぜなら、その生徒はかなりの長身−周囲で立っていた生徒に比べても明らかに頭一つ半は抜きん出ていた−であったうえに、
その頭髪は教室に射し込む朝の光をはね返して白く輝いていたからである。無論、その顔は同じ
日本人とは思えないほどに彫りが深く、どこか西欧系の顔を思い起こさせた。言わずもがな
その男子とは涼であり、彼の傍らには智也と唯笑の姿もあった。
「いつもの事とはいえ、日本の学校の一教室の過剰定員には閉口するね…」
と日本の学校に編入して以来の感想を素直に口に出したが、智也も唯笑も『はいはい…』といつものように涼をなだめていた。すると、教室の隅で固まっていた男子生徒の集団の中から『おぉ!?
三上じゃないかぁ!!』という声が上がり、その輪の中から抜け出てきたのは…
「信?…稲穂信か!?」
と智也もビックリした様子で信に向かって歩いて行き、ガッチリと堅い握手をした。しかし、
いまいち涼は事情が飲み込めなかった様子で
「ん?三上君…知り合いなのかい??」
と小首を傾げながら訊ねた。すると智也が
「ああ、彩花が事故に遭った時に取り乱してた俺を一喝して、冷静さを取り戻させてくれたのがこいつ…稲穂信なんだ…。まぁ、それ以来もちょくちょくあってはいたんだけどな…」
と涼に説明した。そして涼が満足してうなずいた時にタイミングよく鐘が鳴り、その音を合図に生徒達は誰からという訳でもなく入学式に望むべく体育館へと歩き始めた。そして智也と唯笑、涼に信の4人は揃って歩きながら体育館に入っていった…。
入学式と言うのは、えてしてお偉いさんの定型文的な話を聞くのが慣例であり、それに耐えるのも一つの苦行である。智也が言っていた『この眠気をどう制圧するかが入学式のポイントなんだ』と言うのはある意味外れではなかった…。が、普段の涼であれば学会の論文講演を真剣に聞いてるときの集中力でどうと言う事もなく眠気の制圧はやっていたのだが、今回の入学式の来賓の話にいたっては
余程つまらなかったらしい。あの身長でありながら、器用に聴いているふりをして居眠りをするという
離れ業をやってのけてみせたた。その後…『新入生総代挨拶…』と言うアナウンスと共に、
今年の入試で一番の成績だった女子生徒が壇上に上がり、これまたお決まりの新入生総代挨拶なるものを読み上げ始めた。すると、今まで器用に眠っていた涼が前触れ一つ発せずに目を覚まし、
その挨拶をやけに真剣な面持ちで聞き始めた…。
入学式も無事終わり、教室に戻った智也達はこれから教室に到着するであろう担任と副担任を、
今か今かと待っていた。と言うのも、入学式の時点でこのクラスの担任が女性であると言う事が
告げられていたからである。当然、智也や信に限らずほとんどの男子生徒が妙にテンションが
上がった状態で待ち構えているのはお約束的な光景であり、それを女子が冷めた目で見ていると
言うのもこれまたお約束的な光景であった…。
そして、廊下の向こうからやって来る一年生の担任団の姿が見えた少し後…。『ガラガラ〜』と言う
音と共に扉が開き、入ってきたのは『絶世の美女』と言う形容詞がピッタリの女性教師と、
やけに冷静そうな男性教師だった。
「お早うございます。今日から一年間このクラスの担任を任される事となりました『秋篠 真澄美』です。担当科目は生物です、宜しくお願いしますね」
と水晶をカービングしたような端正な顔立ちから、聞く者を夢の中に引き込みそうな優しい口調で
クラスに語りかけた。その瞬間、男子生徒からは歓声が上がり、女子からはウットリとした様な
ため息が聞こえてきた。勿論智也と信が歓声を上げていた事と、唯笑がため息を漏らしていたことは
言うまでもなかった。すると、真澄の傍らに控えていた男性教師が真澄と位置を入れ替わり、
クラス中を見回した後「で、俺が副担任を勤める『石原 誠』だ。知ってる顔もチラホラしてるけど、
まぁ、この一年宜しく頼む」
と、やけにあっさりとした挨拶をした。
その後、真澄美が『では、お互い初めて会うんだし、自己紹介でもしてもらいましょうか?』と提案し、クラスのメンバーが順番に−こう言う場合、大抵は五十音順に自己紹介をするのが
慣習ではあるのだが−自己紹介をする事になった。当然智也と唯笑も自己紹介を済ませたが、
涼の自己紹介がクラスの注目を一番集めたのは言うまでもなかった…。
そして放課後…。『ついでにどんな設備があるのか見ていこう』と言う事になった三人が校内を
彼方此方と見回っていると、校舎の端の方に保健室があるのを見つけた。当然、
医師免許を持つ涼が興味を示すのは当然の事で、
「失礼しま〜す…」
と言う声とともに、カラカラと引き戸を開けて入っていった。
この澄高の保健室も、ありふれている一般の高校の保健室と同じようにベッドに薬品棚、校医が
陣取る事務机といった備品類が並ぶ保健室であったが、普通の保健室とは
違う点が一つだけあった。それは…
「あら?こんな時間に誰かと思えば、氷乃森博士の息子さんじゃないの…。
この学校に入ったの?」
とぶっきらぼうに聞いてくる白衣の女性がいたことくらいである…。が、
「ああ…緋村先生じゃないですか。今度はここでお茶を濁すつもりですか??」
とやや呆れた口調で涼が返答を返した。当然、智也も唯笑もその白衣の校医−校医と言うには、
やや剣呑な雰囲気が漂っていたが−を知らないので当然の事と言えば当然だが、涼の方を
向いたままでポカーンとしていた。すると
「この人の名は『緋村 杏子』…私の父の教え子で助手をやってた人なんだよ。頭は切れるし肝も
据わってるし、でも何よりも腕のよさは超一流なんだよ。本来ならばあちこちの大学病院やら
国立病院からオファーが来てるのに、どう言う訳か学校の校医でお茶を濁している
変わり者でもあるんだけどね」
と涼が二人に説明すると、緋村女医も二人に近付き
「と言う訳よ。まぁ、これからも色々とあるだろうけど、宜しくね」
とくわえタバコのままで三人に挨拶した。彼女にしてみればそれは至極当然の行動であったが、
智也と唯笑、果ては彼女を一番良く知っているはずの涼ですら呆然となってしまっていた…。
その日の帰り道…と言っても、入学式自体が昼前に終わっているのでまだ陽は高かった。涼達三人が澄高の坂の下で彩花を待っていると、遠くから杖を突く音と共に『カチャ…カチャ…』と言う金属同士が軽くぶつかり合う音が聞こえ、同時に一人の少女−その少女は右足に金属と革ベルトで作られた
補助器具を着けていた−が頑張って杖を突きながら
三人の所にやってくるのが見えた。
「あれ…?涼ちゃん、あれ…華音ちゃんじゃないの!?」
「はぁ…?あ、本当だ…。華音ちゃんじゃないか」
と智也と唯笑が驚いて見つめる中、華音はハァハァと息を弾ませながら
「ハァ…ハァ…。澄空高校って、結構遠いんだね…息上がっちゃった…」
と言いながら肩を上下させていた。二人が住んでいる『セゾン澄空』から、この澄高の坂までは普通に歩いても15分ほどかかる。ましてや右足がほとんど動かない華音にしてみれば相当の時間がかかるだろう…。それを、彼女は一人でここまで歩いて来たのである。そして、その訳を華音に言わせると…
『こういう体だからって歩かないと健康に悪いし、太っちゃうからいい運動になるんだよ…。それに、
私も澄高目指してるから通学の練習になるもんね?』
と言うのである。
その後彩花とみのりが合流し、6人は澄空の商店街で時間を潰した。その時に分った事なのだが、みのりの家は商店街の一角にある八百屋の『八百杉』の一人娘で、親父が言うには
『ウチの娘はこんなだけど、ま、宜しく頼むよ!』
との事だった。
そして、夕暮れも近づいてきたと言う事で彩花、唯笑に智也は涼と華音に見送られて
藍ヶ丘への電車に乗って帰っていった…。
そしてその夜…。智也の家は相変わらず両親が長期赴任のため、彼一人で住んでいた。まぁ、
中学生の頃からそういうことには慣れている彼なので、特に不便を感じる事はなかった。
そして智也が夕食−智也の料理の腕は知れているので、作ると言った所で手の込んだ物は
作った事がなかった−を作ろうかと思い、階下の玄関前を通り過ぎようとした時
『ピーンポーン』と玄関のチャイムが鳴った。智也が不思議に思いつつもドアを開けると…
「あ…彩花?何しに来たんだ!?」
そう…。玄関先にはホーローの鍋を抱えた彩花が立っていたのである。そして、よくよく鍋を見てみるとフタの部分に張り紙がしてあり、
『今日、ロールキャベツ作ってみたんだ…。智也…一緒に…食べよ?』
と書かれてあった。そして智也も、僅かに上気し潤んだまなざしを向けている
彩花の心に気付き、
「ああ、一緒に食べようぜ」
と言って、ドアを開けて彩花を招き入れた。
そして、彩花がロールキャベツを温めている間に智也が風呂を沸かし、準備が整った後…。
食卓には二人分の食器と、温かな湯気を立てるロールキャベツが並べられていた。
そうこうしている内に、風呂から上がった彩花と、彩花の後に入った智也が食卓に着いた。
そして、おいしそうなロールキャベツに箸を伸ばしている智也を見つめながら、彩花は
『どう…かな・・?美味しい…?』
とメモ書きして智也に訊ねた。すると、智也も
「ああ、すごく美味いぜ。まるで高級レストランみたいな味だ」
と太鼓判を押した。そして、彩花もその智也の言葉に安心したのか自分の前に取り分けてあった
ロールキャベツを食べ始めた。
そして、暫くTVを見たりして時間をすごした後、玄関先で智也と彩花が向かい合いながら
「じゃぁ、お休み。また明日な?」
という智也の言葉に、彩花は首を縦に振ってうなずいた。
そして、どちらからともなくお互いの距離が近付いて行き…柔らかな春の月明かりの下、
二人の唇は静かに、そして甘く触れ合った…。そして、永遠とも思える一瞬の後、
頬を赤らめながらも自分の家に向かう彩花に向かって
「おやすみ」
と声を掛ける智也の姿がそこにあった。
その春の日は何時までも穏やかに続き、全ては…あの日の悪夢は夢幻の彼方の事のように
思えた……。しかし、既に廻り続けている運命と蜃気楼の歯車は、予期する事を拒んでいた『あの日』を再現しようとしている。そして、その歯車の上で踊る者達はそれぞれの想い、それぞれの苦痛、
それぞれの耐え難い苦しみを抱き続けたまま、ただ廻り続ける……くるくる、くるくると……。やがて、
その歯車の『宿命』という名の刃(は)が噛み合った時、全ての想いは解き放たれる…………。
氷龍「つーことで、『Memories Mirage』第二章第一話な訳ですが…どう?」
華音「どう…って言われても…ねぇ?(チラリと涼を見る)」
涼「こんなもんじゃないですか??」
氷龍「そんなもんかい…。まぁいいや、ところで、今回のお話では『レベリオン』シリーズから
『秋篠真澄美』と『緋村杏子』の二人をゲスト出演させてみた訳だけど、
涼…二人の印象は?」
涼「そうですね…。秋篠さんはなんだか、無機的で…そう、例えるなら水晶の様な雰囲気を
纏ってましたね。緋村さんは庶民的な…気前のいい姉貴みたいな感じの人でしたね」
華音「ふ〜ん、会ってみたいなぁ…」
氷龍「澄高入ったら会えるよ…それまではガマンガマン」
華音「ハァ〜〜〜イ……」
涼「で、氷龍さん。第二章第二話の内容は?」
氷龍「そう!今度書く第二章第二話こそ、この作品の山場の一つな訳よ!
当然、涼にも活躍してもらうよ」
涼「活躍!?まさか…マシンガン片手にどっかの研究所に殴り込みかけるとか??」
氷龍「いや…それじゃないよ…。だいいち、そう言う事は拓水のほうが慣れてるだろ…?」
(『海藤拓水』登場)
拓水「ん?氷龍さん、俺呼んだ?」
氷龍「呼んどらん!ってか、作品違うだろうが…お前は…。
ほら、向こうで美雲が呼んでるぞ」
拓水「あ、ホントだ…(拓水退場)」
氷龍「耳聡い奴…」
涼「まぁ、何があるのかは分かりませんが、御期待に沿えるように頑張ります」
華音「と言う事で!次回『Memories Mirage』に…」
涼「皆さん!!こう御期待!!」
氷龍「それでは、次回までごきげんよう!!」
fortdauern…・・(続く)
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